４　交通ネットワークの形成

１.交通ネットワークの考え方

〈震災からの教訓〉

• 阪神間の神戸・阪神地域は、もともと臨海部のわずか２〜４�qの幅の中に鉄道、道路の東西交通インフラが密集している。これらすべてが被災したことから、救援・復旧活動に困難をきたし、都市機能が長期間麻痺した。その影響は、わが国全体の産業・経済活動にまで波及した。

• したがって、今後は多重的で代替性に富む強靱なネットワークを形成するため、東西・南北両方向にバランスのとれた交通体系の構築が必要である。

〈交通ネットワーク形成の考え方〉

• 地域の一体化‥‥複数の都市核間の効率的な連携を支える地域内交通ネットワークの構築

• 国土幹線とのネットワーク‥‥西日本国土軸と太平洋新国土軸、日本海国土軸及び南北地域連携軸などの広域連携のための交通ネットワークの構築

• 防災性の向上‥‥複数のルートのネットワークによる代替性の確保

２.交通ネットワークの現況

• 圏域内の交通ネットワークを構成する要素の中でも、都市圏を構成する上で重要な役割を果たすと考えられる鉄道及び道路の現況について把握する。

(1) 鉄　道…圏域内鉄道網の再構築

〈圏域内交通網〉

• 東西ルートが沿岸部に集中しており、代替ルートが必要である。

• 新都市核間のルート及び新都市核から沿岸部へのルートが不足している。

• 淡路地域が鉄道ネットワークから乖離していることが課題である。

〈広域交通網〉

• 東西ルートの主軸は、東海道本線・山陽本線と山陽新幹線が整備されているが、代替ルートとなる福知山・加古川線ルートは、大阪・姫路間の所要時間が約３時間にもなる。したがって、今後は輸送力のアップ及び新たな代替ルートの確保が重要な課題となっている。

〈国土軸上の交通網〉

• 太平洋新国土軸及び日本海国土軸上の地域との連携が必要であるが、このためには広域南北ルートが脆弱である。

• 交通ネットワーク幹線が大阪に集中しているため、代替ルートの確保等の対策も必要である。

(2) 道　路…整備進む道路網

〈圏域内交通網〉

• 『兵庫県震災復興計画』における東西６軸・南北６軸の整備計画によって、既存都市核と新都市核の連携ルート、内陸部新都市核間の連携ルート、格子型配置による東西・南北軸の代替ルート、国土軸を利用した地域外部との連携ルートが確保される予定となっている。

• したがって、新都市核の形成及び既存都市核の発展に必要な地域内交通網は、将来的にはかなり確保されるものと考えられる。ただし、加古川周辺地域の南北軸ルートはやや不足しているように思われる。

〈広域交通網〉

• 大阪湾岸の阪神高速、中国道及び名神高速に加え、山陽道及び第２名神の複数ルートがラダー状に計画されており、輸送力のアップと代替路による交通の多重性の確保という国土軸の強化が期待できる。

〈国土軸上の交通網〉

• 太平洋新国土軸と日本海国土軸をつなぐ南北地域連携軸の形成により、南北広域交通ネットワーク能力のレベルアップが期待できる。

３.交通ネットワークの将来イメージの提案

(1) 現況における課題

• 兵庫南部広域都市圏における交通ネットワークの将来イメージを提案するにあたり、まず圏域の交通ネットワークの現況における課題を整理すると、以下のとおりである。

〈地域内鉄道網の遍在〉

• 地域内鉄道網が遍在しているため、新都市核の形成と都市核間の交流及び既存都市核との連携が阻害され、広域都市圏の形成に対する隘路となる。

〈自動車依存による環境面への悪影響の懸念〉

• 地域内鉄道網と比較して道路網の整備が進んでいるため、自動車交通に依存するおそれがあり、環境面への悪影響が懸念される。特に、広域核間の交通において、この傾向が顕著になると予想される。

• 環境を損なわないで持続可能な「サステイナブルシティ」を目指して、世界の都市はエネルギー消費を削減するために、自動車から公共交通機関（鉄道等）にシフトし始めている。したがって、今や自動車中心の交通は、時代の流れに逆行している。

〈ネット状交通ネットワークの整備〉

• 代替性の向上のため、線から面へ、代替ルートが複数確保された“ネット”状の交通ネットワークの整備が必要である。

(2) 将来イメージの提案

• 兵庫南部広域都市圏の交通ネットワークの現況及び整備計画を把握した結果、道路網に比べて鉄道網の整備が非常に弱いことが明らかになった。

• また、都市核間の交通ネットワークを形成する上で、公共交通網としての鉄道の整備が果たす役割は非常に重要である。

• 以上を踏まえ、鉄道網を中心とした交通ネットワークに絞って、提案を展開する。

�@ 基本コンセプト

〈都心部と広域核の接続〉

• 三宮等神戸市の都心部と広域核を最短ルートで接続することにより機能分散を促す。

〈環境負荷の軽減・経済性の考慮〉

• 環境負荷の軽減及び経済性を考慮して、新規の開発は可能な限り避けて、既存の鉄道路線の延伸等を検討する。

〈代替性の確保〉

• 新しい広域核間相互を接続し、有事における東西・南北ルートの代替性を確保する。

�A 将来イメージの提案

• 我々は、上記の基本コンセプトを踏まえ、圏域内の交通ネットワークの将来イメージとして、「兵庫南部レールウェイネットワーク」を提案する。

〈放射ルート〉

• 広域核から神戸及び阪神間を中心とした既存都市核の高次都市機能の活用を考えた放射ルート

〈環状ルート〉

• 沿岸部に集中した東西ルートの代替機能の確保と都市核間の連携を促進するための広域核間の移動を中心とした内陸環状ルート

４.交通システムの現況

• 前節で述べた交通ネットワークを構成する具体的な交通システムについても併せて提案していくが、このためにまず、交通システムの条件について考察する。

(1) 都市核間ルートの現況　

〈放射ルートの状況と望まれるシステムの条件〉

• 放射ルートは、圏域の中枢都市である神戸と宝塚、北神・三田、三木・小野、西神、北淡といった周辺の広域核を結ぶもので、地形は六甲山系を含め起伏に富み、一部に高低差の大きな地域もある。

• 鉄道整備の現況をみると、一部地域は神戸市営地下鉄及び北神急行の地下鉄と神戸電鉄が整備されているが、十分整備されているとは言い難い。

• 圏域の中核都市である神戸と宝塚、北神・三田、三木・小野、西神、北淡といった周辺の広域核との連携に供することから、迅速かつ大量な輸送力が必要とされる。

• ルートの対象地域は、山間部等の自然環境に恵まれた地域を通ることから、環境面への配慮が必要である。

〈環状ルートの現況と望まれるシステムの条件〉

• 環状ルートは、広域核を結ぶもので、六甲山系を含め起伏に富み、一部に高低差の大きな地域もある。

• 鉄道整備の現況をみると、道路網が比較的整備されている一方で、一部地域を除き鉄道システムは存在しない。

• 各都市の指標から考えて、現在は一定交通量の確保が困難と思われるが、将来的にはある程度の交通量が見込まれるため、中規模の輸送力の確保が必要である。さらに、環状ルートの延長が全体で約50�qという距離となるため、システムには中・高速性も要求される。

• 今後の広域核の発展による交通量の増大にも対応するため、将来性を持ったシステムが要求される。

• ルートの対象地域は、臨海部に比べ自然環境に恵まれているため、環境面への配慮（環境負荷の軽減）が必要である。

(2) 周辺へのアクセスに望まれるシステムの条件

• 兵庫南部レールウェイネットワークの構築により、それぞれの地域に交通拠点が整備される。その拠点から周辺地域へアクセスするシステムを考える場合、多様な目的地にも対応できるような柔軟なシステムが要求される。ただし、一度の輸送量は少ないため、少量できめ細かな対応のできるシステムが必要である。

５.新しい交通システムの提案

(1) 都市核間ルートのシステム

〈放射ルート…地下鉄の延伸等既存システムの活用〉

• 放射ルートは圏域の中枢都市である神戸とのアクセスにあたることから、迅速かつ大量の輸送力が期待される。さらに、都心部への自動車流入量の抑制とシステム自身の環境面への負荷を考えて、「大量型鉄軌道」または「中量型鉄軌道」を導入する。

• 現状では、一部地域は地下鉄・私鉄が整備されているため、工事費の低減、乗り入れの利便性などを考慮し、このルートは既存交通システムを延伸させることとする。

• なお、提案ルートではないが、既に多数の周辺都市と結ばれている神戸電鉄は、輸送力増強やスピード向上のため、複線化等の対応が望まれる。

〈環状ルート…ＬＲＴ（ライトレール）の導入〉

• 前節のシステムの条件で述べたように、環状ルートは、ある程度の中量輸送力、中・高速性、環境面への低負荷といった条件が求められることから、「中量型鉄軌道」を導入する。

• また、上記の条件の他に、このルートは新規建設となるため、低建設コストを図らなければならない。さらに、広域都市核の今後の発展による交通量の増大にも対応していけるような将来性といった条件を考慮し、このルートにはＬＲＴ（ライトレール）を導入する。

(2) 交通結節点のシステム

• 広域核の交通結節点には十分な駐車場や駐輪場を設け、パークアンドライドシステムやサイクルアンドライドシステムを促進し、車・バス・バイク・自転車・徒歩等の多様な交通手段と鉄道への乗換システムを強化する。

• これにより、郊外部からの人の流入を鉄道中心にシフトし、慢性的な交通渋滞等を抱える都心部（神戸）への自動車流入を抑制する。

• 利便性を確保し、分散によるデメリットを最小限にしながら、全体のエネルギー消費を抑え、ゆとりある安全で豊かな広域核の発展を推進する。

６.交通ネットワークの整備による発展

〈拠点性の高まりによる発展〉

• 広域核は、都心部から延びる放射の高速鉄道と環状の中量中速鉄道が交差する交通結節点であり、乗降客や周辺地域を対象に商業施設や広域行政機関のサービス施設を核として業務・サービス機能等の立地が進むことが予想される。

• 高速大量輸送機関によるアクセスが容易であるため、広域を対象とする郊外型の大規模商業施設や大規模娯楽施設の立地誘導が期待される。

• また、これらの集積を前提として、21世紀に向けて郊外立地を望む情報産業系の生産・研究開発機能を始め業務施設も立地することが期待される。

• これらの施設集積は、最近の米国に見られる「Ｔ.Ｏ.Ｄ（Transit Oriented Development）」の開発事例が参考になるものと思われる。

■ ＴＯＤの概念